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1969年 北米カリフォルニア州 ランターマン法(脱施設化)の基礎理解について  斉藤之雄

障害者福祉に携わろうとすると(携わっていると)、利用者の自己決定の前提にはどのような思考が参考になるのだろうか、と。ここでは障害者を身体障害者、知的障害者、精神障害者、障害児、治療法が確立していない難病の方(特定疾患対象)のうち、知的障害者を含む広義な発達障害者を対象とし考察学習した。それは先日の相模原事件が衝撃的だったからである。福祉関係者の憤慨と、(犯人を除く)当事者の戸惑いは計り知れぬほど。だからこそ、今一度原点に立ち、多くの諸外国での善きことをどう社会が取り組んで地域社会が向き合ってきたのだろうか。ピアネットワーク(カウンセラ、クライエント)が社会資源を活用して生活することよりも、もっと基本的な「脱施設化」をどう支援するのか。

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■偏見がもたらす生き難さ

相談支援事業、ケアマネジメントの実践あるいは実習において「本人に寄 り添う」、「自己決定」、「障害者とケアマネジャと個別支援関係者の協働」の概念を持たずに現場実践は困難である。協働は単に専門職間の連携という言葉だけではない。クライエント(利用者)にとって「してあげる、してもらう(ここへ行きなさい、ここで受療しなさい)」といった措置は福祉ではない。あくまでも「本人ができないところをできるように支援する」ために社会機能を提供して動くことが肝要である。これは、社会福祉士、社会福祉主事任用資格の養成課程で学ぶだけではなく、介護職員初任者研修(旧ホームヘルパー2級)でも教育されている。

日本においては障害福祉分野で、地域移行を支援するものとして一般相談がある。
概要はコチラを参照されたし。 → [学習] 一般相談と計画相談の違い

また、地域生活支援によって脱施設化が可能である考え方は完全なモデルではないものの、その制度を最大限活用するために相談支援があると捉えている。国際的に障害者はスティグマ(偏見の烙印)を押されるものではないとなっているが、日本では障害者を社会参加から遠ざける隔離風潮が根強く残っている。日本人が持つ偏見的美徳観にもあるが「周囲の迷惑を掛けずに生きていくこと」、だから「周囲へ迷惑を掛けるものは隔離(排除)しよう」という短絡的思考を口にする者は少なくない。それでも社会構造が措置から契約へ変わり、障害があっても中国語でいうところの残障者として、地域社会で暮らせるように制度を運用する支援機能として社会福祉職がさらに必要となるだろう。

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■知的障害者・発達障害者の地域生活を支援する海外事例

先日、図書館で14年前(2002年)に発刊された書籍を読んだ。

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アメリカの発達障害者権利擁護法「ランターマン法」の理論と実践。

内容(「MARC」データベースより)

カリフォルニア州の発達障害のためのサービス法の一部、「発達生涯がある人が地域で他の人たちと同じように生活するためにサービスとサポートを利用できる権利」を定めるランターマン法の具体的な解説を中心にまとめる。

著者略歴 (「BOOK著者紹介情報」より)

定藤/丈弘
1942年大阪府に生まれ。1967年関西学院大学社会学研究科修士課程修了。米国カリフォルニア大学バークレー校社会福祉学部大学院在外研究員(1987~1988年、1996~1997年)。元大阪府立大学社会福祉学部教授。1999年死去

北野/誠一
1974年大阪市立大学経済学部経済学科卒業。1983年大阪市立大学大学院生活科学研究科社会福祉学後期博士課程単位取得。1986年桃山学院大学社会学部助教授。サンフランシスコ州立大学社会福祉学科客員研究員(1990~1991年)、カナダダグラスカレッジ客員研究員(1996~1997年)、1995年より桃山学院大学社会学部教授

田川/康吾
1932年宮城県生まれ。1954年東北大学工学部応用化学科卒業。同年大阪窯業セメント(株)(現住友大阪セメント(株))入社、海外プロジェクト室長等を経て1992年退社。同年「あおば福祉会」事務局長、1997年退任。2000年「定藤記念福祉研究会」設立に参加、現在事務局長

村田/陽子
関西学院大学経済学部、関西学院大学社会学部卒業。関西学院大学大学院社会学研究科社会福祉学専攻博士課程前期課程修了。現在、あおば福祉会研究員、武庫川女子大学ほか非常勤講師

安原/佳子
大阪府立大学大学院社会福祉学研究科博士後期課程単位取得退学。(財)子どもの城療育センター勤務(発達・療育相談)の後、現在、桃山学院大学社会学部勤務(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)


<より具体的な書籍概要と自らの想い>

カリフォルニア州の本人中心支援計画 (PC-IPP; Person Centered Individual Program Plan)に基づいた地域センター(RC; Regional Center)による購買契約に基づくサービスシステムによる社会共生の成功事例。

偶然にも以前、UCB (カリフォルニア大学バークレー校)へ訪問した際に、自立生活運動 (IL 運動)が 1962年に始まった地であると知った。それはポリオによって全身麻痺(重度肢体不自由)となっている学生「エド・ロバーツ氏」の生活権獲得運動のこと。訪問したときの私は福祉工学、支援工学 (Assisteve Technology) によって、障害児者から高齢者まで、当たり前の暮らしをテクノロジとアートによって当たり前の生活維持ができないだろうかと考えていた AIIT 社会人大学院生だった。その翌年は、日本福祉大学で「福祉」とは何であるのかを幅広く学士編入することになったのだが。

当時は intel 北米主催 Real Sense Challenge ファイナリストに選出され、多言語同時通訳国際手話アイデアを具現化しようとしていた。アイデアは NUC賞の受賞をいただいたが、最終成果物として単調な動作しか理解できないことと、本人に対する発語支援なのか、生活支援なのか。人間がドリブンされるときの意思劣化など自分自身が福祉について曖昧な理解が強く、結果としてプロダクトを発表するレベルまでに至らず終いであったことも、医療福祉介護を学びたい意欲に繋がった。

UCB UCB にて。


<カリフォルニア州の知的障害者・発達障害者支援の歴史的背景>

1960 年から 1970 年代にかけて、前述 IL 運動も含め当事者団体の行動によって世論が動かされ、カリフォルニア州は急激に知的・発達障害者を脱施設化の方向に推し進めた。ノーマライゼーション理念の浸透や、ケネディ大統領委員会の方針などが作用したと考えられている。しかし、当時政府は何ら一貫した戦略や方策はなく、ただ入所者を退院・退所させて地域に送り出すだけという状況であった。そこで 1970年代以降、地域移行に関するコーディネートやサービスが必要とされ、徐々に現在のようなシステムに発展していった

カリフォルニア州の地域移行支援に関する歴史的経過

  1. 1965 年 7 つの大規模施設に 13,500 人余の知的障害者を収容
  2. 1966 年 カリフォルニア州のランターマン法によって RC が設置され、599 人の地域生活を支援
  3. 1976 年 RC が 21 ヶ所に増 え、33,833 人の地域生活を支援、施設入所は 11,000 人に縮小
  4. ランターマン法改正により、RC の利用者全員に個人支援計画(IPP)が必要とされることになった
  5. 1985 年 裁判の結果、個人支援計画によって決定されたサービスはサービス受給権 (Entitlement)を有すると認められた
  6. 1992 年 ランターマン法改正により、本人の希望と目標に基づく自己決定・自己選択を認めるとともに、そのことをふまえた PC-IPP (本人中心支援計画) が義務化される

RC (地域センター)について

  • カリフォルニア州の RC は、知的・発達障害者のサービスの調整と購入を一手に行っ ている。
  • RC は州全体で 21 カ所あり、ケースワーク・支給決定・サービスの購入管理 一元的に行う公設・民営方式で運営されている。
  • RC の特記すべき事項は、全てが州の予算により、NPO 法人の委託運営である。
  • ランターマン法で NPO 理事会の 50% 以上は、知的障害者本人と家族等で構成されている。
  • コンシューマーコントロールが確約されている。
  • ケースワーカーは、1 人当たりの平均で 80 名程度を担当しており、実際にサービス を利用している障害者に訪問面接を行うことが義務づけられている。
  • ケースワーカーは その生活状況をモニタリングし、1 年毎にサービスの質を見直していかなければならない。
  • サービス購入予算は各 RC が管理し、他の費用とともに州の一般財源から拠出され る。
  • RC は 2001 年、17 万 1430 人の地域生活を支援しており、一人あたりの支援費は、年 1 万 2 千ドルである。
  • 一方、カリフォルニア州の 4 つの入所施設利用者は 4 千人を割 っており、一人あたりの支援費は、年 16 万 3 千ドルである (2004年時点)。これらのことより、地域生活のニーズの方が高く、費用も効率的であるかが理解できる。民主主義国家の日本でも「脱施設化」が必要であるのは、北米事例からも明らかであると考えられる。

PC-IPPでは、「どこに」「誰と住みたいか」「どのような生活を送りたいか」「どのようなサービスを使いたいか」など、本人の意向を聞いてから、ケアプランやサービス決定が行われている。

参照)
・カリフォルニア州 IPP マニュアル第1章
http://www.dds.ca.gov/RC/docs/IPP_Manual_Chap1.pdf

・IPP マニュアル(全文、283頁)
http://www.dds.ca.gov/RC/docs/IPP_Manual_Full.pdf

<PC-IPP で興味深い資料>

■PEOPLE IN NAME’S? LIFE

PC-IPP_P16

真ん中にいるのは利用者(当事者)であって、社会資源、家族、友人、コミュニティ支援者視点ではない。Person Centered という言葉を見せる相手は文字理解(識字)が困難な方だっておられよう。

■A VISION OF THE FUTURE
PC-IPP_P21

主体的に地域生活移行するためには社会資源の存在を知ること、そして自分の希望や未来を考えるのは自分自身だということ。これを当事者抜きでそれが善かれと思っても絶対に押し付けてはいけないということを改めて読み取った。

■FOUNDATIONS OF PERSON-CENTERED PLANNNINGPC-IPP_P45

The term, person-centered planning, refers to a family of approaches to organizing and guiding community change in alliance with people with disabilities and their families and friends.

Each approach to person-centered planning has distinctive practices, but all share a common foundation of beliefs: として、再度 PC の目的について当事者(利用者)の受益がどうなるのかを踏まえて説明している。

ちなみに、カリフォルニア州サクラメントに担当行政拠点がある。

Department of Developmental Services Services and Supports Section 1600 Ninth Street (MS 3-13) Sacramento, CA 95814

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■障害福祉サービス等利用手続き (日本)

http://www.mhlw.go.jp/bunya/shougaihoken/service/riyou.html これを見て、端的に理解するのは困難。それだけ、日本の障害福祉サービスは諸外国に対して遅れているというより、まだまだ措置時代の流れが強い。

とは言っても、手続き面ではサービス契約へ移行済み。

MHLW

計画相談支援における現状と厚生労働省の取組
厚生労働省 社会・援護局障害保健福祉部 障害福祉課 地域生活支援推進室 (H25.11.29) 資料1より。
公開資料より抜粋 http://www.mhlw.go.jp/bunya/shakaihosho/seminar/dl/02_100-01.pdf

北米カリフォルニア州 ランターマン法(脱施設化)の基礎理解を進めてきたが、介護保険とは違う障害者施策について今後の行く末を見守るためにも、理解をさらに深めていきたいと考えさせられた。

以上

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投稿者 斉藤之雄 (Yukio Saito)

Global Information and Communication Technology OTAKU / Sports volunteer / Social Services / Master of Technology in Innovation for Design and Engineering, AIIT / BA, Social Welfare, NFU / twitter@yukio_saitoh